その路を行けば
ニッショー
ニッショー.jp

魔法がきれるころ 魔法がきれるころ

其の壱

その日の私は、とっても機嫌が悪かった。何故って?それは、朝起きると顔が少しむくんでいた事から始まり、
ご飯を食べようと冷蔵庫を開けると、そこにあるはずの卵は無く、牛乳を飲もうとコップに入れると半分もない…。
これはダメだ、どこかで食べようと素早く準備して出かけると、家の前にいた見慣れない猫に睨まれ、
駅ではギリで電車に乗り遅れ…そんなこんなで最悪のスタートだった。
電車に乗りスマホで『占い』をしてみると、『凶』。やっぱり良くない結果。そしてこの運気を変えるには
『環境を変える事』だって。…ムムっ!!環境って家?そうか…そうなのね…さっそくスマホでお部屋探し。
って、どこにしようかな…そうだっ!!先週友達と行った豊橋?じゃなくて豊川、豊川稲荷。
あの日また来ようと思ったのは、この事なのね。という訳で名古屋駅で乗り換え豊川に向かう。

私の両親は共働きで土日も忙しく、私の面倒を見てくれたのは祖母。今もよく話す。私が元気、というか、
いつもポジティブでいられるのは祖母のおかげ。少し前に、元気が取り柄の祖母が病気で寝込んだときは、
かなり動揺した。…そう、頭ではわかっていても、納得できてはいなかった。いつか祖母と別れる時がくるって。
考えただけで嫌になり、『今は私がムリだから、あと50年は頑張って生きてね』と祖母に言うと
『あたしゃ妖怪か?』と言う。『ムムっ…その手があったか!!で、どうやったら妖怪になれるの?』
て言うと『なれんし、ならん!!』だって。

スマホでゲームに熱中していると、あっというまに
目的のアパート『ウィンディア常盤』に到着。
電車の中で見つけたお部屋を見せてもらう。
と、アパートの奥に見慣れぬ建物が…これって蔵?
そうだよね、時代劇に出てくる感じそのまま。
あるんだ…フツーに、しかもアパートに。

案内してくれた人に
『このアパート借りたら蔵も付いてくるんですか?』
って聞いたら、そんな訳ないじゃんって顔で
『付いてないです』って言われた。
『わかってるわ!!』

アパートを出ると向かいには神様が…
というか神社があるじゃないですか。
アパートの目の前に神社って、ここに住んだら、
私に神様の力がプラスって事?そうなの?って事は
私メチャクチャ強いじゃん、…イヤ、最強じゃん。

思いつきで豊川まで来てしまった。それならついでにと『豊川稲荷』に行った。豊川稲荷と言えば
金運UPのパワースポット。願い事はもちろん『引越し代と家賃をください』です。ヨシ、これで大丈夫。

商店街で、おせんべいと餡蜜を食べながら考える
『今日のランチは何にしよう…ここで食べるんだから、やっぱり和食だよね』
…おっと、目の前に良さげな和食屋さんが…しかも老舗っぽい。
さっそくお店に入って、お蕎麦とお稲荷さんを食べた。

いつも私の味方でいてくれる祖母。思えば子供の頃から私を溺愛している。
祖母は口癖のように『あんたなら大丈夫』と言う。幼い頃、楽しみにしていた遠足の前日に熱が出て寝込んでしまい、
シクシクと泣いていると祖母が来て『あんたなら大丈夫。明日の朝起きたら治ってるよ』と言い、翌朝起きると本当に
治っていた。中学生の頃はテストで悪い点を取っても、部活の試合で負けても、いつでも『あんたなら大丈夫、
次は大丈夫』と言われ、本当に次は大丈夫だった。
だから私は、例えピンチになっても、きっと大丈夫だって事を知っている。
…でも時々不安になる事もある、そんな時は祖母に話すとスッキリする。やっぱり大丈夫だよねって信じられる。
ちなみに祖母の『あんたなら大丈夫』は今も続いている。どんな仕事に就くのか悩んでいた頃、学生時代に始めた事が
楽しすぎて、それをそのまま仕事にしようと決めた、まわりの友達たちとは全然違う路。『大丈夫なの?私!!』と、
正直ちょっと悩んだ。でも祖母に『あんたなら大丈夫』と言われたら自信が湧いてきた。フツフツと湧いてきて、
どんどん湧いてきて、湧きすぎてメラメラ燃えて今は仕事に没頭している。

良さげな和食屋さんを出て商店街を歩いていると、
前回は気づかなかったものがけっこーある。
写真を撮りたくなる昭和?的な看板がいっぱいある場所や、
つぶらな瞳がとってもキュートなキツネちゃんもいる。

『なんて可愛いんだろ…』はっ!!可愛い人もキツネちゃんも好きだけど…
なんとなく、この子には負けたくない…というか負けられない戦いだ…
ここは一つ『つぶらな瞳勝負』だっ!!…と写真を撮り
『ビミョーな差で私の勝ちだな』と満足して駅に向かった。

家に帰ると玄関先で祖母が、今朝私を睨んだ猫を撫でていた。『おかえり、今日は早いね』『ただいま』と言うと、
猫は私を見て何故か威嚇し、走り去って行った。それを見た祖母が『あんた、あの猫に何かしたの?』
『しないよ!!今朝始めて見たんだし』『じゃあ、なんでだろね?』と言ってニッと笑って家に入る祖母
『ちょっと!!何?』