その路を行けば
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妙齢の女とカタツムリ

其の弐

なんとなく始めた部屋探し。成り行きで知多半島に行ってから結構真剣に探している。探してみると結構いろんな場所があるんだと、あらためて思う。そんな中、最近気になる緑区休日を利用して行ってみる事にした。

今日はここ、緑区有松町の『ドミール有松』を見せてもらった。
この辺りは山だったのかな?坂道が多い。
物件も坂の中腹にあって斜面に建っている。

見せてもらった一階の部屋の窓から外を見ると、一階と思えない高さで
緑も多く眺めが良かった。
室内はリフォームされていて綺麗な状態。
あと、何と言っても広い。この広さは魅力的。
他の部屋の住人はファミリーが多いのかな?

ここに住むならどんなインテリアがいいかなと思案し、
ここでの日常を思い浮かべる。
リビングに面した和室には小さなテーブルと、
テイストのフロアライトで瞑想しよう、
そしてリビングはアジアンにして、
ダイニングとリビングを兼ねてくつろげる空間に。
シンプルに物を少なくしてモダンな感じもいいかな…。

あとはご近所、買い物や駅への路。
コレが大事なんだよねと、早速歩いてみる事にした。

空を見上げると、どんよりした雲が空を覆っている。
梅雨が終わると夏…。夏か…数年前の出来事。
先日ふとしたきっかけで4年前の夏に知り合った二人の事を思い出した。
知り合った夏の間は週に2、3回おなじcaféで会い、
わりと親しく話すようになったのに、私は彼らの事を何も知らない、
名前も年齢も仕事も。
何となく聞くタイミングを逃したのと、
いつでも聞けると思っていたが……
彼らは夏が終わると、そのcaféに全く現れなくなった。

そしてその翌年、長かった梅雨が終わりを告げ、
それまでの鬱憤を晴らすようにギラギラ輝く太陽が空を支配しだした頃、
仕事帰りに例のcaféによると……彼らがいた。

『わっかんねーかなー、だから悲しい時は笑ってた方がイカすじゃん』
『そりゃ、わかるけどよ、見てる方は悲しくないんじゃねーかって思う訳さ』『は?んな訳ないだろ、そのシチュエーションで』…そして又モメている。
懐かしさが込み上げてきた。
目が合うと彼らは少し驚き、ニッと笑って手招きした。
席に着く、不思議と会わなかった期間が無かったように自然に接する。
『私、二人にどうしても聞いて欲しい事があったんだ…』

3ヶ月前、春の日差しが気持ちいい頃の出来事。
私は猫を飼っている、とういうか飼っていた。
それは随分前に、お腹を空かせていた野良猫に出会った事から始まった。
あまりにも弱々しく鳴く姿が可哀想で、
近くのコンビニで猫用の缶詰を買い与えたら、よほど嬉しかったのか、
後日同じ場所でネズミを咥えて私を待っていた。
本当にこんな事あるんだと感動し、その猫を飼い始めた。
でもこの春、その猫はあっけなく逝ってしまった。

駅に向かう路の坂を登ると、
石垣の先にジブリの映画に出てくるような木に覆われた家があった。
その先に神社があり、坂を登りきると、一気に景⾊が開けた。
坂を⾒下ろす頂上に⽴つと、大パノラマが広がる。
夏の晴れた⽇にもう⼀度ここに立ってみよう。きっと気持ちいいはず。
もうすぐやってくる夏へと思いを馳せ、⼗分に景観を満喫して駅へと向かう。

愛しい猫との突然の別れで心の傷がなかなか癒えず、
近頃は何をしていても上の空。
友達に相談しても『ペットじゃん』って言われてちょっとムッとした。
でも二人なら理解してもらえる気がして、ずっとこの機会を待っていた。
大切なものを失った虚しさや寂しさと、思い出を一気に話した。

随分時間がかかったが何も言わず二人は聞いてくれた。
話し終えると一人が
『…ネズミ持ってきたんだ。すげーな、その猫。嬉しかったでしょ?』
『そういう感謝の気持ち、少しはその猫見習えよ』
『は?俺だってネズミくらい獲れるわっ!!!』
変なところに負けん気を出して、またモメ始めたと思ったら、
いつの間にか話題が変わり、いかに自分の方がマヌケか張り合い出した。
『俺なんてな、コンビニのおにぎりの包装を綺麗に取れないんだぞ』
『甘いなお前は…おれは一昨日の夜、酔って帰る途中ドブに落ちた。
しかもアセって出ようとしたら、さらにコケて顔からドブに突っ込んだ』
どんどんヒートアップする彼らを見ていたら可笑しくて
久しぶりに大笑いした。最後は涙が出てきて彼らが驚いていた。

-それから幾度となく同じcaféで彼らに会い、
涙が出るくらい面白い話しをたくさん聞かせてもらった。
そして夏が終わると彼らはcaféに現れなくなり、
その夏を最後に彼らには会っていない。

駅に近ずくと驚いた。古い街並みが続く路があり、
駄菓子屋や有松絞りのお店が軒を連ねている。

観光で来ている外国の人たちが行き交う路を
ブラブラ散歩して帰った。

最寄駅付近が素敵な観光地っていいな。
しかし、その後雨が…。急いで帰路に着く。

あっという間に秋が過ぎ去り、
ようやく愛しい猫を失った心の傷が癒え始めた頃、
久しぶりに例のcaféによると、
店の人から私あてに荷物を預かっていると言われた。
小さな箱を受け取り席に着いて開けると、
中にはオモチャのネズミが『ファイト』と書かれた
小さな旗を咥えて満面の笑みでこっちを見ていた。

帰り路、大きな木の下で雨宿りをしていると、またもやカタツムリを発見
今年はよく見る。『うん、今夜はエスカルゴだな』
そして帰路に着いた。