その路を行けば
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カミナリ鳴る頃に カミナリ鳴る頃に

其の弐

お気に入りの場所が一つ増えた。
スカイブルーの扉がとっても可愛いセレクトショップ。
服や小物も私好みで、店内の素朴な感じも好き。
でも一番好きなのはこの入り口のベンチ。座ると街の喧騒が遠く感じる。
休日の午後、弟のお部屋探しに出かけた。
千種区にある『東山動物園』と『本山』の間にあるマンション。
以前から気になっていた
パン屋さんの近くという事もあって、ちょっと楽しみ。

『PAL東⼭』というマンション。
⽩で統一された室内に窓が2つある。
ベランダに出る窓と、小窓。
窓を全開にすると心地よい風が部屋を通り抜けた。
8帖あるので、まあまあ広い。
一人暮らしには、これくらいがいいかな。
…しかしトイレの広さには驚いた。
インテリアが好きな人はDIYとかして楽しめそう。
窓を閉めれば、⼤通りから少し⼊った所に建っているので、
街の喧騒は聞こえない。
何と言ってもこの物件、立地がいい。
地下鉄『東⼭公園駅』まで徒歩3分は魅⼒的。
こんな所に住むかもしれない弟が羨ましい。

周りの散策に向かう為、マンションを後にした。
まずは気になっていたパン屋さん『ル・プレジール・デュ・パン』
お店の前に来るとパンを焼く甘く魅惑的な香りに食欲がそそられる。

店内に入りショーケースに並んだ
パンとケーキを前にして悩む。
1時間ほど前にランチをしたので小さめのにしようかな…
でも、どれも美味しそう。
絞りきれず悩んでいたが、次から次へとやってくる人達。
あまり待たせるのも気が引ける。
ん~コレ……とコレ。結局2個注文した。

見た目も美味しそうだけど、
食べてみるとその美味しさに大満足。
フワッと軽い食感のパンと、
ずっしりとお腹を満たしてくれるパン。
種類も豊富でどれも美味しそう、全部食べてみたい。
たくさんの人が買いに訪れるのも納得。

お腹も満たされ、店を出る。今日は梅雨の時期にもかかわらず雨は降りそうにない。
もう少し散策を続けようと本山方面に向かうと、ひっそり佇むセレクトショップを発見。
中を覗くとメンズしか置いてなさそうだが、弟の為にと寄ってみる事にした。

-昨夜、弟と電話で話した。お部屋探しの事、…そして私の悩み。
新しい環境にチャレンジしたい気持ちで進んできた、…これまでは。

『でね、これってチャンスだと思うんだ』 『そーだな』 『でもさ、チャンスってピンチでもあるって誰かが言ってたの』
『ま、そーだな』 『でもせっかくのチャンス、やるべきだなって思ってる』 『うん、そーだな…で?俺が住むマンションどうしよ?』
『ん~この前見たマンションはいいと思うよ。でも明日も私見に行ってくるから、そっち見てから考えれば?』
『ん~…どれでもいいんだけど』 『は?そんなのダメだよ。毎日帰る我が家だよ!!…大事にしなきゃ』 『…そーだな』

これはダメだ。きっとメンドくさくなっている。
弟が後悔しないように私がしっかりしなければと気を引き締める。

たまたま通りかかったセレクトショップ。
メンズしか無いと思ったら、この店の裏に
レディースのセレクトショップもあるとの事。
行ってみると、まいった…完全に私好み。
優しい感じの店員さんにスニーカーやカットソーの事をアレコレ聞いていると今日の目的を忘れそうになる。
また来ますと言い残しお店を出た。

このお店、これから結構来るな、私。
お気に入りのショップがまた一つ増え、お部屋探しの新たな魅力を発見した。

子供の頃、スポーツ少年だった弟は体格も良く、
とにかく外で遊ぶ子供だった。
近所の公園に雑木林、家から自転車で
15分程かかる山にもよく友達と行ってたみたいだ。
夏休みになるとカブトムシやクワガタを捕まえては
得意げに見せる弟、それくらいはまだいいが、
雑木林や山なので、変な虫はもちろん、トカゲやヘビもいる。
そんなものまで捕まえては持ち帰り、母親に叱られていた。

虫はおろか爬虫類まで素手で捕まえて持ち帰る弟は、
どういう訳かゴキブリだけは大の苦手。
しかも無理ならなるべく避けていればいいものを
図書館にわざわざ行っては、
『ねーちゃん知ってるか?ゴキブリって水一滴でも
一週間くらい生きられるらしいぞ、こえーな』とか
『ねーちゃん、ゴキブリは飛ぶというよりは滑空なんだって。
しかも20メートルくらい行っちゃう事も
あるらいしいぞ。…こえーな』などと、
どうでもいい情報をわざわざ調べては私に話し、怖がっていた。

そんなある日、夕食を終え、リビングでTVをみながらくつろいでいると、カサカサとTVの裏から弟の天敵が現れた。
『ぬあっ!!!ね、ね、ねーちゃんっ!!!』 『おー…、でっかいね』カサカサと動くゴキブリ。
『うおっ!!!ね、ね、ねねねーちゃんっ!!!!』 『わかってるって』と言いながらスリッパを手に持ち、ヤツに近づき撃退した。
するとそれを見ていた弟が捨て犬のような目で私を見つめ『ねーちゃん…つえーな』と言った。

その時から弟は私に逆らわなくなった。それまでも私にはわりと従順だったが、それからは明らかに私を見る目がかわった。
そう、まるで救世主を見るような目で私を見、困ると私の助言を必ず聞きに来ては、助言に従うようになった。
たった一つ、例外を除いては。