その路を行けば
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縁、そして円 縁、そして円

其の弐

大好きな友達の一人と買い物に出かけた。正直者というか、嘘がつけないというか、けっこー思った事をすぐ口にする。
そんな裏表のない性格が何か安心できて、よく会う友達の一人。栄で待ち合わせて彼女を待っていると、時間ちょうどに小走りで現れる。
『ね、キミは本当に結婚するの?』 『何?いきなり…するよ、結婚。だって大好きだし』『へーそうなんだ…』と言って
目玉が落ちちゃうんじゃないかと心配になるくらい目を見開いてる。彼女はちょっとでも驚く事があると、目を見開いて驚愕の表情をする。
でもそんなに驚いている訳ではないらしい…。ブラブラしながら雑貨に服、靴と見て回る。
『キミは服とか好きだよね、でも、ほら彼って私2回しか会った事ないけど2回とも甚兵衛着てたよね、』
『そう、しかもあの甚兵衛、仕事のときも着てるんだよね』『えー!?』『面白いでしょ、夏…違うな春から秋までずっと甚兵衛』
『アハハッ。ね、たしか甚兵衛みたいな名前だよね、…笑えるー!!』『ちょっと!!私の彼だよ。しかも、もうすぐ旦那様
ーその日はたくさん話して、いっぱい歩き、最後は終電ギリギリまで美味しいイタリアンと美味しいお酒を楽しんだ。

ー翌日。今回はイヤイヤながらも新居探しに一緒に行ってくれた。
見せてもらったのは尾張旭市の『アプリコットマンション』室内は広くて綺麗。

明るいトーンで統一されて清潔感が漂う。
まさに『新居』って感じでとっても気に入った。
彼はというと室内をチラッと見て玄関にしゃがみ込み、
何を話しかけてみても『いいんじゃない、任せる』としか答えない。
無頓着というか何というか…
でも、考えようによっては、いちいち口出ししないって事は、
私が全部決めていいって事なので、それならいいかと、
彼はほっといて、隅々まで確認してマンションを後にした。

ー普段着も仕事着も甚兵衛しか着ない彼。
結婚式は紋付袴を着ると言い張って譲らない。着てみれば納得するだろうと、実はこの日予約しておいた…タキシードの試着を。
マンションを出て脇を覗くと、彼が好きそうな趣きがある路がある。予想通り彼は『ちょっと行ってみよう』と言って歩き出すので、ついて行った。

辺りをキョロキョロしながら『いいな、この辺り』と彼が言う。
『そうだね、なんか歩きたくなる感じ…そういえばこの前さ、友達と買い物行ったの。
その時に友達と話してて思ったんだけど、服、もしかしてソレしか持ってないの?』
『ん?どうだっかな…イヤ、持ってる…と思う…ほとんど着た事ないけど』
『ふーん、そうなんだ…』『…ね、近くに森林公園があるんだよね、ちょっと行ってみない?』
『うん。…もしかして俺も、もうちょっとお洒落した方がいいか?』
私、けっこう好きだよ甚兵衛、似合ってるし。』『…。』
『でも興味あるなら行ってみる?服屋さん。私がコーディネートしてあげる』『…。』

広大な敷地の森林公園に着いた。歩道が作られていて歩きやすい。
『すごく広い公園だね』と言うと『公園っていうのは、もともとイギリスで王様の領地を市民に開放したのが始まりらしい』
『…ふーん』最近何かとウンチクが多くなった。前はそんな事なかったんだけど…
『なんでも当時、市民にも自然を満喫しながら散歩する権利があるだろう!!という事をイギリスの人達が主張したんだと』
『…うん』あまり興味はないが、遮るのも悪いのでとりあえず聞く。『日本では明治時代以降に増えたらしいな』『そーなんだ』

…そんな事よりタキシードの試着を予約した時間が近ずいてきて少々あせる。『ま、そんな訳で今、自然を満喫しながら散歩ができる…と言う事だ』
『…じゃあ感謝しなきゃね、そのイギリスの人達に。ね、行ってみようよ、服屋さん。私がコーディネートしてあげるから』『…行ってみるか?』
ヨシッ、作戦成功。あとは…まあ、着せちゃえば何とかなるかと栄のお店に向かう。

道中、お店の事を聞かれても困るので、お仕事の事を聞いてみた。『そういえば、お仕事の日は食事ってどうしてるの?ランチ…外で食べるの?』
『ん?だいたい弁当だな、コンビニの』『へー…そうなんだ』…そーなのっ!!って事は結婚したら私が作るの?早起きして…聞いてなかった。
でも新婚早々コンビニのお弁当を食べさせる訳にもいかないし…作るしかないか…『ちなみに好きなおかずは何?』『目玉焼きと…ミートボール』
『そうなんだ』仕方ない頑張って早起きして作るかと覚悟を決める。『じゃあ結婚したら私がお弁当作るね』と言うと『ん?いいよ、今月だけだからコンビニは。今は一人しかいないから、そうしてるだけ。交代で夏休み取ってるから』…先に言ってよ、そうゆう情報は。その後は他愛もない会話をしているとお店に着いた。彼に『ここだよ』と言うと『…ん?ここ?…』『さ、入ろ』『…嫌だ』『着てみるだけだから』『…』

しぶしぶ着替えた彼が試着室から不機嫌な顔で出てきた。『自慢じゃないが紋付袴は似合うと思うんだ、我ながら。でもタキシードって…』
『悪くはないよ』『あのな、タキシードってスラ~ッとした奴が着ればいいんだろうけど、俺が着ると…セミみたいだろ?』『そう?』
人間、絶対に笑ってはダメと思えば思うほど笑いが込み上げてくる…セミって…。『何?顔が強張ってるけど』『そんな事ないよ』
…だめだ、こっちを見ないで。『ほら、ちゃんと鏡見てみなよ』すると彼は鏡を見ながら『み~ん、み~ん、み~…』と真顔でつぶやく。
そこが我慢の限界だった『フフッ…アッハッハッハ』大笑いする私をみる彼の視線が怖かった、でも笑いは止まらない。
『絶対にもう着ないからな』とふてくされる彼をよそに、しばらく笑っていた。

『お願いだからこっちを見ないで』