その路を行けば
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縁、そして円 縁、そして円

其の壱

いよいよ、というかようやく結婚する事になった。保育士を目指した程の子供大好きな私。
でも短大を卒業すると保育士になる夢を諦め、全く別の職業に就いて子供達と触れ合う機会も無くなった。
社会に出れば素敵な人と出会って結婚するんだろうと思っていたが、そう簡単に相手に恵まれる訳でもなく、
気がつけばそれなりにいい年頃…私、結婚できるのか?なんて思い始めた頃に彼と出会った。

ーそして新居探し。
カレの職場に近い尾張旭の『ハピネス三郷』。この部屋メゾネットで広さは十分、内装も落ち着く色合いで居心地がいい。

ここに住むならダイニングテーブルはちょっとこだわって、
奮発しようかな、などと考えてしばらく佇む。
そして収納…極端に服を持っていない彼はいいとして、私は服が多い。
たくさん買いすぎるという訳ではなくて、捨てられない。
ここくらいあれば大丈夫だな…あとは彼が何て言うか。
『和室は絶対にほしい』なんて言っていたのでちょっと心配。
ま、とりあえず話してみようと、写真を何枚か撮り部屋を出た。

出会ってもうすぐ2年、初めの印象は怖い人かな?と思ったけど、とても話しやすくて何より感受性が豊かで面白い人だった。
いろんな事に挑戦するのが好きな私は『陶芸』に興味を持ち体験教室に行った。
いきなり『ろくろ』に挑戦したせいか、上手くできず、すぐにグチャグチャになってしまう。
指導してくれた人は『そーっと触れて。優しすぎても、強すぎてもダメになっちゃうから』とお手本を見せてくれる。
もっと器の厚みを薄くしたいが、何度挑戦しても上手くできない。『出来あがったら誰かに贈りますか?』『いえ、自分用です』
『じゃあ、手伝ってもいい?』『はい、お願いします』と言って仕上げてもらった。

アパート前の路を行くとコンビニ、温泉施設もあり、駅も近い。
ロケーションも気に入った結構便利な場所なんだと感心してアパートを後にした。

仕上げている最中、その人はボソッと『大切な人…』『え?』
『イヤ、大切な人に贈るものを作った方がいい物が出来る。…見た目とかじゃなくて、なんか温かかいんだ』『…』
その時は気にならなかったけど、『大切な人』っていう言葉…というか表現を久しぶりに聞いたと思い、頭の片隅にずっとあった。
翌月、もう一度その『教室』に行った。また同じ人が付いてくれて『今度こそ贈り物?』と聞いてきたので『はい』と答える。
二度目なので出来るかな?と思っていたが、また同じところでつまづく。が、今度は手伝ってくれる気配が無い。
仕方が無いので自分で悪戦苦闘しながら何とかできた、しかも結構いいんじゃない?見てもらうと『うん、…見た目はいいですね…』
何?このリアクション。綺麗に出来たと思っていたのに…あれ?もしかして『贈り物』って嘘言ったから?
『あの、もしかして温かみですか?』『へ?…うん、そう』『ごめんなさい…贈り物って言っちゃって。実は自分用です』『やっぱり』
…ふうん、わかるんだ。
ーコレがきっかけ。指導してくれた彼とその後付き合う事になった。

帰り道、見学したアパートから
車で5分ほどの場所にある洋食『榮屋』でランチした。
肉厚のステーキはボリューム満点で、サラダにグラタンも付いていて大満足。
ここなら大食いの彼もきっと満足する。次は絶対連れてこようと決意した。
…そもそも新居探しになぜ私一人なの…。

マイペースな彼はメールしてもなかなか返信しない。イラっとして電話するとだいたい出る。
そんなささいな事でささいな喧嘩をちょくちょくする事もあったが、付き合い始めて半年くらい経ち、一緒に旅行にも行くようになった。
水族館やテーマパークに行くとボーッとして私の後についてくる彼も、世界遺産とか古い建築物、遺跡に行くと立場が逆転する。
一歩進むごとに目を輝かせてペタペタとあちこち触れていたかと思うと、突然ダッシュして壁や柱に駆け寄って行く。
そして普段は無口なのに、そんな日はよく喋る。こっちは散々歩き回ってヘトヘトで早く寝たいのに、ず~っと喋っている。
『もう、わかったから少し静かにして』と言うと『あの良さがわからんかなー』と言ってさらに同じ話を繰り返す。
そして最後は決まって、『味があっていいよな、石とか草とか土。いずれは茅葺屋根の家に住んで囲炉裏で酒を飲もう』
…コレが本気で言っているから怖い。『無理でしょ、手入れだって大変そうだし、冬は寒くて夏は暑そう』
『冬は寒くて夏は暑い。夜は暗くて、日中は明るい。当たり前だろ?』『無い無い…エアコンに照明。現代人は便利で綺麗なのが一番』

この頃からずっと不安だった事。それは結婚したらどうなるんだ?って事。
彼はこんな調子だから式は神社?着物しか着れないの?ウェディングドレスは?私の夢はーっ!?
-それから1年くらい経った頃、ずーっと不安だった思いをぶつけてみた
『あのさ、もし、もしだよ、結婚する事になったら神社じゃなきゃヤダとか言ったりする?』
『は?教会に決まってるじゃん、教会、チャペル。ウェディングドレス見れないじゃん、神社でやったら』
…なんだ…
『でも俺は紋付袴』『は?そんなカップルいる?』…私の夢までまだ先は長そうだ…。