その路を行けば
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ひまわりが笑った ひまわりが笑った

其の参

盆休み、久しぶりに実家に行った。家事は母がしてくれるので、私はもっぱらゴロゴロしていた。
誰も見ていないTVを消すと外から『ジージー』とセミの鳴き声。窓に目をやると緑の影、実家のまわりには木が多い。
懐かしさが込み上げてきて、『ちょっと散歩してくる』と母に声をかけると、犬も連れて行ってと頼まれたが聞こえないふりをして外に出た。
本当は母を誘って姉のアパート探しに行くつもりだったが、一人でぶらぶらする事にちょっとハマってきたみたい。
実家から10分ほど歩いたところにあるアパートへと向かう。しばらく歩くと田んぼに挟まれた路になる、懐かしい…。
何年ぶりだろ?などと考えていると田んぼの中にオタマジャクシを発見。幼い頃は何てかわいいんだろうと思っていたが、
今見るとそうでもない。『歳かな…』とつぶやき、さらに歩いて行くとよく遊んだ用水路がある。そういえばここで友達たちと遊んでいて落ちたっけ…
足をぶつけてすっごく痛かった。…落ちた瞬間、水の冷たさ、這い上がろうとして掴んだ草の匂い。鮮明に覚えている。

実家の近所にあるアパート。
最初に姉が見てきてほしいと言ったアパートで、
津島市の『HARBEST ITO』
部屋の中を見せてもらう。明るい…窓から緑が見える。
そして『ジージー』と鳴くセミの声が…姉はコレが気に入ったのかな。
ま、この感じは説明しなくてもわかるよね、近所のお店もよく知ってるし。
甥っ子には私達がよく遊んだ公園で
遊んでもらいたい…という事かな

…うん、近所に犬もいっぱいいるし。
可愛らしい外観と、白を基調としたお部屋。
姉の好みだなと思い部屋を後にした。

懐かしい…この感じ。こうして実家のまわりを歩いていると幼い頃の感覚が蘇ってくる。さらに歩いて行くと庭先で
鎖をピンと引っ張る犬を発見。甥の希望は楽しげな公園、そして近所に犬がいる事。人懐っこそうな…というか
ちょっとマヌケな顔が愛嬌たっぷりでかわいいワンちゃん。みるとギリギリ届かないところに小さなボールがあって前足で取ろうと
もがいている。『ボールで遊びたいの?キミは?』と声をかけると、私を見て『ワンワン』吠えながらグルグルまわりだした。
取ってあげたいが他人の庭に勝手に入るわけにもいかず、『ゴメンね』と声をかけてその場を立ち去る。

すがるような眼差しで見つめている犬、そんなにボールが欲しかったんだ…何か笑える。…笑えるか…
私は人と接する時は笑顔を心掛けている。仕事柄、苦手な人に微笑む事もわりと平気。でも甥っ子のそれとはなにか違う。
甥は本当に楽しそうに笑う、体全体で。子供の頃は私もあんなふうに笑っていたと思うが…『大人だからね』と呟く。

でも姉も甥と一緒のような感じで笑う…。いつ頃からかな、と考えていると
遠くから私を呼ぶ声が聞こえて来る。見ると姉と甥、それに実家で飼っている犬。
『来たんだ』と声をかけると二人と一匹が走って来る。
『そんなに走らなくても』と言うが、お構いなしに甥が私の手を取って走り出す。
『ちょっと』と抗議したが姉も早くおいでというので仕方なく日傘を持ったまま一緒に走り出す。
しばらく走ると立派なひまわりが咲く路に着いた。

『何なの、いったい?』と聞くが私の質問には誰も答えずアパートはどうだった?と逆に聞いてくる。
『うん、よかったよ』と姉好みのポイントを説明すると、そっか、とあまり興味無さげ。
『で、何で走ったの?』と聞くと二人同時に『走りたかったからー!!!』と答えにならない答えを言い、それを聞いた実家の犬が
ワンワン吠えてグルグルまわる。なんなの?この二人と一匹は?すると甥が犬の真似をして『ワンワン』言いながらグルグルまわりだした。
『そういえばさっき見た犬もそんなふうにワンワン鳴きながらグルグルまわってたよ』というと、何が面白いのか姉と二人でゲラゲラ笑って、
姉までワンワンいいながらグルグル回り出す。『ちょっと、大丈夫?』と言うと甥が私の手を取りグルグルまわる
『ちょっと、やめてよ』『一緒にやろっ!!』っと言ってやめてくれない。仕方がないので私も二人と同じようにワンワン言いながらグルグルまわる。
『…ハハッ……アッハッハッハッ』三人と一匹でゲラゲラ笑いながら回っていた。気がつくと汗ビッショリ。
普段なら不快なのになぜか気持ちいい。すると突然『やっと笑ったーっ!!!』と甥が言い走り出す。
姉が後を追い『スティックおいでー』と実家の犬を呼び、二人と一匹は走り去っていった、全力疾走で。

私も実家に戻ろうと来た路を引き返して行くと、さっき見かけた犬が私を見つけ『ワンワン』グルグルした。
私も同じように『ワンワン』グルグルする。『アッハッハッハッ』調子にのってグルグルまわっていると、
バッグからスマホが飛んだ。あわてて拾うとケースに少しキズがついた程度で無事。『セ~フッ!!』というと犬がビックリする。
…『あ、私ったら一人だった』今度は一人で騒いでいた自分が可笑しくて可笑しくて笑いだす、笑いすぎで苦しくなってくる。
ひとしきり笑い、笑いすぎて出た涙を拭う。犬がまた『ワンワン』グルグルしだした。
…見るとさっきは気付かなかった犬小屋の隣に咲くひまわりが大きく風に揺られていた…
『そっか!!キミも楽しくて笑ってるんだね』